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2009/12/11

Re: ローマ字入力(@altocicadaの独り言ち・・・ 《私と書いて「わし」と読みます》)

文字入力と言語の構造、思考の構造
http://d.hatena.ne.jp/altocicada/20091209/1260370181

ローマ字入力に対する不満に関して、

・頭の中で一旦仮名にしたものを、再びローマ字に分解するのが無駄。

てのがあるけど、自分ではそんなこと経験したことはないし、実際に普段付き合う人間の口からも、そのようなことは聞いたことがない。なので、この議論は怪しい。

・・・・・・というのは、よく聞く話で、自分ももちろんこのように考えていたわけだが、

・では、ローマ字入力をしている時に、ローマ字で考えているかといえば、それは違う

のだ、ということに気づいた。

キーボードによる文字入力の成果物は文字の集合としての文章です。文章は論理的な構造だけでなく、その言語に特有の表記システムという構造に制約されます。

頭の中で考えたことが最終的に文章になるまでの過程が実際どのようなものであるのかは脳科学などの分野で研究されているのだと思いますが、実のところどうなのかについて決定的なモデルというのは難しいのではないかというのが私の素人考えです。

その中で言語の表記システムと入力システムの関係だけをとってもさまざまな可能性があるのではないのかなと私は考えています。表記システムの考え方は言語によりさまざまですから、使いやすい入力システムというのもいろいろな考え方があり得るのではないでしょうか。

上記引用にある、ローマ字入力の際に頭の中でローマ字への分解をしているかという議論も、そうした考え方の多様性やモデル化の難しさというのを反映しているのだと思います。

私はこのブログやさまざまなところで親指シフトについて書いてきましたし、いくつかの言語について親指シフトを応用した入力方法の試案を考えてきました。こうした中で、言語の構造と入力方法をどのように関連づけるのかについても、いくつかアネクドタルな例について考えたことがあります。

以下にそうした例を掲げます。いずれも結論めいたものがあるわけではないので、議論のネタとして考えてください。

1. スペイン語のñ(エニェ、nの上にティルダがついたもの)には独立のキーは必要か

私の記憶では、スペイン政府はキーボードの規格を決めるに当たってñが独立のキーであるとの項目を入れようとして、他の国からの大きな反発を受けたということがありました。最終的な決着がどうだったか知らないのですが、現在普通に使われているスペイン語配列では、ñは独立した地位を与えられているようです。

私がスペイン政府の議論でおかしいなと思うのは、chやll, rrについて同じ議論がされなかったことです。これらの文字の組み合わせは、そんなに昔ではない時期まで、スペイン語では一つの文字として扱われていました。少し古いスペイン語の辞書では、chやllが一つの項目として、aやbと同様の扱いを受けています。

だとしたらこれらについてもñと同様に独立のキー位置を与えるという議論があっても良いはずではないでしょうか。すなわち、一つの音素を表す文字には一つのキー位置を与えるという原則を貫くのだったらそうした議論があるべきなのです。

2. 日本語の表記がローマ字だったら「かな」入力は有効かという思考実験

日本語の表記がローマ字だったら(つまり、かなや漢字がない)、キーボードのキーには現在使われているJISキーボードや親指シフトキーボードのような「かな」を書くことはできません。

しかし、現在通用している日本語表記において、かなをローマ字にするルールは(訓令式やヘボン式といった違いを除けば)一意に決まっているので、「かな」入力をすればローマ字表記がディスプレーに現れるというやり方もできるはずです。つまり、現行のローマ字かな変換の逆をするわけです。

こうすれば、ローマ字を入力するのにアルファベットをいちいち打鍵しなくたって、1.7倍(笑)の速度で日本語(ローマ字表記の)が入力できるわけです。

この入力方法は自然で合理的でしょうか。

3. フィンランド語の重母音、重子音

フィンランド語の表記では、同じ母音を続けると長母音を表すことになっています。同じ子音を続けると日本語の促音と同様の音を表すことになっています。

フィンランド語の入力方法は「一文字一打鍵」となっているので、重母音や重子音では同じキーを続けて二回打つ必要があります。

ここで考えたのは、もしフィンランド語の表記で重母音や重子音が別の文字で書かれるようだったらどうなのかということです。例えばaaの代わりにā (aの上に横棒)としたり、あるいはもっと端的にまったく別の文字を使うことにしてしまうということです。

ここでキーボード入力において、こうした文字に独立したキーをアサインできたら、この新しい表記システムにおいても「一文字一打鍵」の原則が維持できます。

私はこれに注目して、こうした重母音、重子音を親指シフトを利用してワンタッチで入力できる方法を考えました。これにより、打鍵数の節約や同じキーの連打という使いにくい指の動きの削減を図りました。

問題はこれが現行の表記システムの中で自然なものかということです。一打鍵で2文字 (aaとかkk) がディスプレーに現れることは違和感を生むのではないかという疑いです。

一方で、音韻的に見ると一つの音素に一打鍵が対応しているわけで、その意味では「しゃべるリズムに同期している」ということも言えるのではないかという気がしています。

この方法は使いやすいのでしょうか。

これらは、思考の構造と入力方法の関係を考える面白い材料になるのではないかと思います。何らかの結論を出すには至りませんが、こうしたことを考えるきっかけには親指シフトという技術があったのです。

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コメント

私見ですが、
PCでは「親指シフト」ですが、
電子手帳では「ローマ字」です。
脳で、インターフェイスを自動認識している様ですね。

投稿: 門松一里 | 2009/12/12 00:37

親指シフトのキー配列決定するために、当時使われている語彙を調べたと記憶していますが、そのために親指シフトキーボードの配列が、実用的というか話し言葉的というか、日本語(正確には日本語文章)全体から見ると「一部に特化したキーボード配列」といった印象は以前からあります。

基本的に「ですます調」で出来ている文章を入力するのはすごく簡単に慣れることが出来る配列、という感覚があります。

まあ、さらにはひらがな(ローマ字ひらがな)で入力するのは、IMEによって最終的な文章になるのだから、IMEの設定がどの程度影響しているのか?という問題も大きいはずですが、ここらのリポートはあまりないですね。

mixi では携帯からの投稿が増えたから、絵文字が激増しています。絵文字の世界は親指シフトではどうにもならないわけです。
韓国の状況はよく知らないのですが、ハングルを部品として2回入力すると一つのハングルになる、といったキーボードがあるようですが、世界的には中国も韓国もローマ字入力が主力のようですね。

結局、文字を入力するのか音を入力するのか、という問題があって日本語ではひらがなという音から漢字という文字に変換する方式であり、ローマ字入力はひらがな前の入力専用文字と考えるべきなのかもしれません。
中国語はローマ字型の発音記号を入力しているということでしょうか?

いわゆる「漢直」も以前ほどは聞かなくなって来ました。
これらを総合すると、文字から音に移行していくのかもしれません。
ちょっとつまらないですなあ~。

投稿: 酔うぞ | 2009/12/12 09:35

門松一里さん

私も携帯電話は、親指(シフトでなく)打ちですし、本屋で検索をするときは50音式です(笑)。

物理的、社会的制約がある場合はこのようになりますね。

酔うぞさん

ハングルは各文字は音節単位ですが、文字の構成単位は音素単位です(原則)。文字の構成は、頭子音(ゼロ子音を含む)+母音+末子音(ない場合は表記しない)というもので、頭子音と末子音で使われる文字の構成要素は共通しています。

それで、ハングル入力の普通のやり方は、文字の構成単位がキーボードに配置されているので、それを打鍵していくとソフトウェアが自動的に文字を作るというやり方になっています。

音素単位で入力して音節単位にできあがるけれども、各音素の配置はアルファベットとは関係ない、という面から見ると、かな入力とローマ字入力を併せた様なもので、日本語の様な漢字変換は必要ない(漢字を使うこともあるが頻度は少なく、ネットなどで見る文章はほとんどハングルだけです)というものです。

中国語では、私の知る限りでは主流は2つの方法で、一つは音韻表記のピンインを入力する(この場合、アルファベットを使う)方法と、漢字の構成要素を入力してソフトウェア的に組み合わせる方法のようです。大陸では前者、台湾では後者が多いと聞いたことがあります。

という訳で、中韓でも必ずしもローマ字入力型が主流ということでもないようです。

ヒンディー語は基本的にアルファベット的な表記で、入力は各文字をキーに割りつけて入力していくようです。ただ、マイクロソフトはヒンディー語のIMEを作っていて、これは音韻的にアルファベットを入力していく方法のようです。

こうしてみると言語の構造(特に表記システム)と入力方法の構造はいろいろな可能性があり得るので、どれが望ましいかについては具体的に当たってみないと分からないということなのだと思います。

投稿: 杉田伸樹(ぎっちょん) | 2009/12/12 18:59

こんばんは。お邪魔いたします。
度々驚くほどお早いお返事ありがとうございます。

「かなロマ」、面白いですね(笑)。ただ、私自身は、目標物と動作とのあいだの夾雑物のなさの故に親指シフトを愛好しますので、かな漢字混じり文が廃止され、「かなロマ」が万が一にも標準になるようなことがあれば、たとえ1.7倍の高速入力が可能だとしても(笑)、必死で純然たるーマ字入力擁護を繰り広げるかもしれません。まぁ、ないのでしょうけど(笑)

ただ、「かなロマ」を使えば、「ひとつの動作が複数の文字種と複対応している状態」というのを経験できて良いかもしれません。そのような複対応が、果たして感覚的・実用的な観点から見て、支障なく処理可能なものなのかどうか・・・・・・。もしかしたら、ラテン文字以外(キリル文字など)のアルファベット系入力法を用いる言語では、ラテン文字入力との互換性を保つために、対応する音素表記を同じキーに割り振ったキー配列が採用されているかもしれませんが、全く未調査の分野ですのでまた調べてみようかと思います。

投稿: altocicada | 2009/12/13 02:52

>そのような複対応が、果たして感覚的・実用的な観点から見て、支障なく処理可能なものなのかどうか・・・・・・。

これがよく分からない、というか、そのようなやり方が実装されたということは聞いたことがないので実際の経験の蓄積がないので言いようがないということでしょう。

ただ、ローマ字かな漢字変換のことを考えると、これは見事に一打鍵一文字の原則から離れている訳で、タイプライターのような機械的制御では不可能だったことがソフトウェア的制御で可能になった大変な成功例なのだと思います。この意味で、私はローマ字入力を評価しています。

構成要素から積み上げていくというやり方が社会的にも受け入れられているのだったら、その反対も可能ではないかというのが私の仮説なわけです。

なお、親指シフトを使った外国語入力の試案でこのような「一打鍵複数文字」を使っているのは、私のあげたフィンランド語の他にベトナム語もそうです。ベトナム語でも、一つの音素に複数文字をあてているもの、例えばnghがあるので、これらをワンタッチで入力できるようにしています。

>もしかしたら、ラテン文字以外(キリル文字など)のアルファベット系入力法を用いる言語では、ラテン文字入力との互換性を保つために、対応する音素表記を同じキーに割り振ったキー配列が採用されているかもしれません

wikipediaの"keyboard layout"のRussianの項を見るとその様なことはないようです。ただし、ロシア以外ではphonetic keyboard layoutというのが通用していて、これはラテン文字との互換性を意識しているもののようです。

投稿: 杉田伸樹(ぎっちょん) | 2009/12/13 08:53

全ては慣れの問題だと思います。
ローマ字入力であろうと五十音字に入力であろうと、最初からそれを使っていて、
かつ長い年月、その方式を使い続けていれば、良くも悪くも、その方式に適応していまいます。
文字を認識→頭の中でローマ字に変換→アルファベットをタイプ。
中間の「頭の中でローマ字に変換」というプロセスがあまりにも効率化されてしまって、
意識することすらなくなっているのだと思います。

投稿: 顔のない旅行者 | 2009/12/13 21:45

自転車の運転と同じようにある段階までいくと一連の動作を小脳が覚えるということでしょうね。
特によく打つ、例えば文末のフレーズとかはそれこそ考える前に指が動く感覚です。変換の必要のない英語圏の人でもそのへんは似たようなものではないでしょうかね。
“バーストタイピング”、でしたっけ? そんな言葉を昔見た覚えが。

どんな入力方式だとしてもそのうち慣れて意識せずに入力できるようになるのは明らか、ということでしょう。つまり、この点に関して入力方式による差異はない、と。

投稿: 親指歴20年 | 2009/12/13 23:24

顔のない旅行者さん、親指歴20年さん

慣れればどのようなものでも使えるようになる、というのは親指シフトにとっては良い面、悪い面があるような気がします。

悪い面としては「どんなやり方をしたって慣れればそれなりに使えるようになるんだから別に何だって良いじゃない。一つのやり方にこだわる必要はないんじゃない。」と言われることです。

良い面としては「タイプライターでの入力とは少し変わった方法かもしれないけど、慣れれば使えるようになるよ。」とセールストーク(笑)ができることです。

おそらく、問題をあまり単純化して「使いやすい、使いにくい」と言ってしまうことは危険なのでしょう。具体的にどうなのかということを言わないと説得的な議論はできないということだと思います。

投稿: 杉田伸樹(ぎっちょん) | 2009/12/14 00:04

拙blogへのまめなブックマーク、どうもありがとうございます。
こちらの記事へのコメントなど読んでいていろいろと思いつくところがあるのですが、長くなりそうなのでまた私のブログの記事にしようかと思います。もうちょっと上手くまとまりませんので、今しばらくお待ちくださいませ。m(_ _)m

投稿: altocicada | 2009/12/16 07:35

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世界最大の親指シフトポータルサイト(笑)を目指しているので、親指シフトのことを書いてくれれば基本的にブックマークさせてもらってます。

>今しばらくお待ちくださいませ

楽しみにしています!

投稿: 杉田伸樹(ぎっちょん) | 2009/12/16 21:53

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