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2008/09/16

Re: Justsystemは「絶対に」2親指シフト系配列を単独で採用したりはしない。(@雑記/えもじならべあそび(相沢かえでの無変換な水木土日記))

親指シフトとワープロソフト、日本語入力ソフトの関係。
http://d.hatena.ne.jp/maple_magician/20080916/1221493328

pp.68-69、「海外で現地のパソコンに、ソフトを突っ込むだけで使えるものじゃないとダメでしょ」という話。

日本語専用キーボードに対して、バッサリ斬ってる。

これは『パソコンは日本語をどう変えたか (ブルーバックス 1610)』で紹介されている、ジャストシステムの浮川氏の言葉です。これは、ATOKや一太郎でスペースキーを「変換」に、エンターキーを「確定」に割り当てている理由として、外国製のパソコンのキーボードでも使えるようにしたことを指しています。その前提として、ワープロ専用機がなくなることも述べています。

原典に当たって浮川氏の言葉を引用します。

「出張で海外を飛び回るビジネスマンは、大きなパソコンを持ち歩けないでしょう。でも、日本語が動くワープロソフトがあれば、ディスク(当時はソフト、データともフロッピィディスクで扱うのが普通だった)を持っていって、現地のパソコンに突っ込んで日本語で文章が作れる。そのときに、特別な日本語用のキーボードじゃないと動かないという状況ではまずいわけです」

これがどの程度、今実現されているかを今しばらく吟味してみます。その上で、それと日本語入力、とりわけ私の関心である親指シフトとの関係を考えてみます。

まず、ワープロ専用機がなくなったことは周知のごとく事実です。もちろん今でも使い続けている人もいますが、新しい機種が出なくなってもうかなりの年月が経っていることを考えると、製品ジャンルとしてワープロ専用機がなくなったことは確かです。そして、その理由の一つが、ある意味で世界中どこでも使えるインフラとしてのパソコンの広がりにあることも確かでしょう。

そうした意味で、世界のどこへ行っても現地のパソコンを使って仕事ができるということは大変な進歩です。いや、それ以上に今はネットにつながっていれば、ソフトやデータだって自分で持っていく必要はなくネット経由でワープロや表計算を使うこともできるわけです。Google ドキュメントはその良い例です。

昔から、王様は手ぶらで旅行するものと決まっています。必要なものは家来が持っていくか、行く先々ですでに用意がされているからです。持ち物をたくさん下げて旅行することを「乞食の引っ越し」と言うこともあります。その点からすれば、ノートパソコンを持って旅行するビジネスマンより手ぶらで行って現地のパソコンを使える人の方がリッチだということなのかもしれません。

みんながリッチになれるためには、それなりのインフラが必要で、この場合にはパソコンというものの規格(デファクトにしろデジュリにしろ)がほぼ統一されていることが大事です。その上に、すでに述べたネットの普及というのも重要なインフラになります。それが実現されつつあるのが現在の科学技術が進んだ世界と考えて良いでしょう。

では、文字を入力するために使うキーボードはどうでしょう。これも現地にあるものを使うべきなのでしょうか。一つ考えなければいけないと私が思うのが、キーボードは人間とパソコンのインターフェースの最前線にあるということです。つまり、使う場合には必ず人間と物理的な接触がある必要があることです。これと正反対に、人間から見てどこにあっても良いのが、例えばコンピューターのハードそのものだったりソフトウェアやデータなのです。後者については、規格が統一されていさえすれば、どんなものでも良いし、どこにあっても(ネット経由だって)良いわけです。

ところがインタフェースについては使う人間から離れることはできません。そして、そのことは使う人の好みやニーズにぴったり合ったものを使うことの重要性を意味します。ですから、パソコンのハードやソフト、データは規格さえあっていれば現地にあるものやネット経由のものを使っても問題はないのですが、キーボードはあくまでも使う人が一番使いやすいものを使わなければならないし、それが現地で用意されなければ自分で持っていくことだって十分に正当化できるのです。

昔から、プロは自分の体の一部として使う道具は自分で用意し自分で持っていくものでした。料理人は包丁をサラシに巻いて料理場を渡り歩き、カウボーイは馬は乗り換えても鞍は同じものを使い続けるのでした。これがインターフェースとしての道具を使いこなす心得なのです。

ですからキーボードについては「現地にこれしかないから」ということで妥協することはプロとしてはやってはいけないことなのではないでしょうか。浮川氏の言葉にはそうした点での配慮が欠けていると私は考えます。もちろん、これは程度問題でもあるので、そうしたユーザーのわがまま(王様でもない限りわがままがそのまま通りほど世の中は甘くない)を全部メーカーが請け負う必要がないのも確かです。

さらに具体的なことを言うとすると、ATOKや一太郎が親指シフトをサポートしない理由が私は分かりません。なぜなら、インターフェースとしての親指シフトの問題とATOKが扱う漢字変換の機能(一番主要な機能だけを挙げます)や一太郎が扱う文書作成の機能が矛盾するとは思えないからです。実際、多くの人が親指ひゅんのようなエミュレーターとATOKを使って日本語入力をしています。つまり、ATOKを使うことは親指シフトを使うことの障害にならないし、その逆も真なのです。だから私からすれば、ATOKや一太郎は親指シフトを敢えて無視することで多くのユーザーを取り逃しているのではないかと思うのです。これは両者にとって不幸なことだし、もっとも不幸なのはユーザーなのではないでしょうか。

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コメント

 トラバ頂きありがとうございます。
 この話、タイトルとは矛盾するのですが、すでに「ATOK+M」という前例があるんですよね……正直、個人的には該当部分の真意をはかりかねている部分がありまして、手元ではあのようなメモ調にとどめていたところです。
 それと、azukiさんからうちにコメントを頂いたのですが、書籍文面ままの制限が真であるならば、NICOLA-JとNICOLA-Fは別にしても、NICOLA-Aはもともとこの制限には引っかからないはずですし……。

 もしかすると、なにかパズルのピースを拾い損ねているのかもしれません。
 この絡みについて、また何か見つけましたら、再び日記へと記録してみることにします。

投稿: かえで(yfi) | 2008/09/17 00:32

浮川氏の言っていることは、5インチフロッピーディスク2枚だけでOS、日本語変換、データ保存を賄えた時代の話ではないですか?
今の時代には、当てはまらない話だと思います。

投稿: KKMM | 2008/09/17 22:34

かえで(yfi)さん
私は「ATOK+M」については知らないのですが、もしあるとすれば「日本語IMEとキーボードの問題は独立である」という私の主張を補強するものだと思います。
私はジャストシステムを批判するというより、どうしてこのような考え方になってしまうのかが不思議でしょうがない(「真意をはかりかねている」と通じるところがあります)のです。そして、そのことがコンピューターで日本語を使うことに対してネガティブな影響を与えている(と私は思う)ことが残念なのです。

投稿: 杉田伸樹(ぎっちょん) | 2008/09/17 22:54

KKMMさん、いらっしゃいませ。
おっしゃる通り、浮川氏の言葉は当時の技術水準を前提としたものでしょう。ですから、技術が違う現在にそのまま当てはまるわけではないのは確かです。
さはさりながら、それは浮川氏のいったことが間違っていたということではなく、むしろ事態は浮川氏の言葉以上のレベルに進んでしまっているというのが私の考えです。
つまり、データもプログラムもネット上で処理できるとなれば、何も持ち歩く必要がなくなります。
私の言いたいポイントは、浮川氏の考えていたような世界、あるいはそれをもっと徹底させた世界においてさえ、キーボードのようなインターフェースにかかわる部分は使う人に合わせるべきではないかということなのです。

投稿: 杉田伸樹(ぎっちょん) | 2008/09/17 23:04

 考え方については、確かに不思議なところがあるな、と思います。

 たとえば、世の中には「(一部のレーザープリンタ用紙のように)筆記性が良くない紙」があったりするのですが、だからといって「(全ての)紙には筆記できないと考えるべき!」という話にはなりえませんよね……単純に「紙質に応じて手段を選択すればいい」というのが現実だと思います。
 2親指シフト系配列が使えないキーボードでは、それなりの入力法しかできない……というのは「誰にでもわかりきっている」話なのでいい(→そういうキーボードでは、ローマ字入力やJISかな、あるいはNICOLA-Aなどが使われる)としても、2親指シフト系配列が使えるキーボードにまで同じく「制限を適用する」というのは、説得の材料?として弱いところがあるような気がしています。

 この手の選択肢については、できるだけ(各環境に合わせて)ユーザー側の意思に基づいて選択できるようにして欲しいなぁ、と思うところです。

投稿: かえで(yfi) | 2008/09/18 14:15

わたしは現在小学校から高校まで、社会人講師で非常に多くの学校に行っています。
所属しているNPOの仕事です。

そこで、NPOのホームページの改変の話になった時に「ホームページの幅を何ピクセルにするのか?」という話題になりました。

わたし自身は、ホームページをサイズは「画面で見る場合」を基準にするから、見る側の勝手で可変にしておいて、最低幅で良いだろう、と思っていたら。

「学校の先生は印刷します」といわれて「縦はどうにもならないでしょう。印刷前提ならPDFを印刷させるべきでは?」と言いました。

これに対しては「縦は仕方ないが、横は紙に入るように」という話に決着したのですが、つまりはワープロが「紙に印刷するレイアウト」をいかに上手に作るか、を問題にしていた部分を「もう不要だ」と言い出した、ということですね。

専用ワープロの消滅どころか、ワープロソフトが不要ということも見えてきたのかもしれません。

時代の変化とは恐ろしいものです。

投稿: 酔うぞ | 2008/09/19 23:40

かえで(yfi)さん
私の妄想は、世界のどこでも親指シフトキーボードを使った入力方法が標準になり、どこでも手ぶらで行って親指シフトを使うことなんですけどね(笑)。
いずれにしても、今あるハードウェアに対応するためだけにソフトウェアの機能を制限してしまうのはどういう考え方なんだろうという思いです。

投稿: 杉田伸樹(ぎっちょん) | 2008/09/20 18:21

酔うぞさん
「ワープロソフトが不要」というのは、ウェブ上だけで活動をしている人にとっては、実際そのようになっているわけですね。これがいわゆるWeb2.0の特徴といえるでしょう。
そのようになっても文字入力は必要なんだから、親指シフトの優位性はますます増していると私は思っています。
『親指シフトはWeb2.0だ』

投稿: 杉田伸樹(ぎっちょん) | 2008/09/20 18:25

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