Re: 親指シフト練習、ひさしぶり。(@Nicola との無謀な戦い)
tonogusaさんは、60歳を越えてから、親指シフトに変えることができるか挑戦しています。書き込みが少ないので心配ですが、がんばってほしいなと思います。決して無謀ではないですよ!
http://www.doblog.com/weblog/myblog/2545/149307#149307
人差し指をつかったキーの訓練。なかなか手ごわい。最近、いくつかのBBSで「親指シフトにしたい」という書き込みがあり、セールスマンの私としては、千載一遇のチャンスなのでお客さんと何回かやりとりをしました。
前の記事で、「親指シフトにスイッチするのは簡単だ」と言いながら、補足2として「『単純な損得勘定』に関係する親指シフトへのスイッチの難しさについては改めて稿を起こす予定」と、分かりにくい言い訳を書きました。現実に親指シフトにしようとしている人がどのような問題を抱えているかをきちんと整理してみるつもりだったのです。親指シフトをトライしてみようという人と意見交換することにより、考えが少しはまとまりました。
最初に、入力方法の選択に関する理論的枠組み(おおげさ)を考えてみます。一般的な制度選択やレジーム・シフトの問題を考えるのと同じですが、他の入力方法から親指シフトに変えるという具体的な問題について考えることとします。
ある人が、現在使っている入力方法の他に親指シフトがあると知り、スイッチするかどうか迷っているとします。選択肢は(a)スイッチしない、(b)スイッチする、の二つです。どちらを選ぶかは、個人から見た主観的なコストとベネフィットの比較によります。つまり、スイッチするにしろ、しないにしろ、自分のもつコストとベネフィットに対する予測の結果で行動を決定すると考えます。この人は選択時点から死ぬまでの生涯で、キーボードによる入力作業を行います。そのために必要な労力(何らかの意味で定義されている)を少なくすることが目的です。
スイッチをする場合には、スイッチにかかる労力も考慮する必要があります。親指シフトを学ぶためにハードやソフトを購入したり、コンピューターをセットアップしたり、あるいはこれまで使っていた入力方法の習熟のレベルに親指シフトで達するまでに仕事がはかどらなかったり、といったことはすべてスイッチしなければ必要がなかったものです。
スイッチしたあとも安心はできません。親指シフトがまったく廃れてしまって、例えばハードやソフトの入手が不可能になってしまったら、もう一度元の入力方法に換える必要があります。これもコストと考えられます。
親指シフトにすることによるベネフィットの生涯での大きさは、単位仕事量あたりの労力軽減の割合、単位時間(例えば一日とか一年)当たりの仕事量、仕事をする期間(死ぬまでの時間)の3つを掛けたものになります。すなわち、労力軽減の割合が高いほど、単位時間あたりの仕事量が多いほど、仕事をする期間が長いほど、ベネフィットは大きくなります。親指シフトが他の入力方法に比べてどのくらい合理的か、これについてはいくつかの調査報告があります。キーボードを使う頻度が高い人、例えば文筆業やテープリライターのような人にとってはベネフィットは大きくなります。さらに、これから長期にわたりキーボードを使う人、例えば子どもはベネフィットが大きいと考えられます。明日死するとも親指シフトにスイッチする、というのは親指シフト使用者にとってはうれしい話ですが、あまり合理的な判断ではありません。
このコスト・ベネフィット分析は主観的な将来の見通しに基づくものであることに留意する必要があります。これを逆手にとれば、スイッチによるベネフィットが大きいあるいはコストが小さいと「思い込ませさえすれば」、スイッチさせることは可能となります。もちろん、それが嘘であるかどうかは事実により常に検証されてしまうので、嘘をつくという戦略は長期的な整合性を持ち得ないと今年のノーベル経済学賞受賞者も言っています(嘘)。まさしく「正直は最良の戦略」です。
さらに、一般に人間は、不確かなことは確かなものに比べて評価は低くなります。不確実性を減らすことができるだけでも主観的なコスト・ベネフィットの分析結果を変えることができます。
こうした準備をした上で、スイッチをするかどうかの判断は、スイッチをするコストの予測がベネフィットの予測より大きいか小さいかによります。ちょっと難しい言い方をすれば、スイッチをするというプロジェクトの内部収益率(IRR)がプラスであればスイッチすることになります。
実際に親指シフトへのスイッチを考えている人に対して説得的な議論でスイッチを納得させ、さらに実行させるためには何が必要かということを上記の枠組みで分解して考えてみましょう。
まず、コスト面に関してです。直接的に分かるコストとして、新しいキーボードやソフトを購入する費用が考えられます。これを低減するには、例えば普通のキーボードを利用したエミュレーションを使うことが考えられます。エミュレーションのソフトはいくつかのものが無料で利用できることも役に立ちます。ただし、フリーソフトの利用は、パソコンの扱い、特にソフトのインストールやセットアップなどをやらない人にとっては面倒なこともあります。こうしたこともコストとしてきちんと評価することが重要ですが、このコストの低減には情報提供の有無が関係します。分からないところがあった時、教えてもらう駆け込み先があるということだけで、予測されるコストは大きく低下すると考えられます。メーカーのサポートがある、ユーザーグループの掲示板が活発である、などは重要なポイントです。
親指シフトを習得するためには時間も労力もかかります。このコストは実際にかかる時間だけでなく、習得のために時間は、それまでの入力方法での仕事ができませんので、それまでの入力方法でそれなりに効率的に仕事ができた人ほど、コストは高くなります。親指シフトを習得してある程度のレベルに達するまでの時間や労力について不確実性があることもマイナスに効きます。それらについてのリーズナブルな予測があることだけでも、主観的なコストは低下するものです。
将来における一番の不確実性である、「親指シフトを実現するハードやソフトがなくなってしまう」ということに関しては、使い続けること、親指シフトの仲間を増やすことしかありません。これまでのところ、OSのバージョンアップや新しいOSの出現にも、なんとか対応させようという親指シフトのコミュニティーの力があったことは心強いものです。でも、安心はできません。各人が行動を起こさなければすぐに後退してしまうのは、ものごと何でもおなじです。
これらをまとめて、親指シフトへのスイッチを後押しするために必要な条件といくつかの提案を箇条書きにしてみます。
(1) 親指シフトが他の入力方法に比べてベネフィットが大きいという証拠をさらに積み重ねて、宣伝する。ユーザーのホームページなどで、入力が楽というメッセージを書くことだけでも大変な力になります。
(2) スイッチのためのコストを軽減する。気軽に親指シフトに取り組めるような環境を用意する。
(3) 潜在的ユーザーの不安を解消するため、情報提供の体制を整備する。
書いてみると「何だ、こんなものか」というものばかりかもしれません。でも、愚直に訴えていくことの重要性も決して見過ごしてはいけないと思います。そして、どんなことでも良いから行動を起こすこと、これに優るものはありません。
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今回は、前回の記事から時間が経ってしまい、かつ、内容も抽象的な上、長くなってしまい、読みにくいことおびただしいのを申し訳なく思います。ご容赦下さい。もう少し気楽に読めるようなものにすることに努力します。
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